社団法人 日本木材加工技術協会 「木材工業」http://www.jwta.or.jp/
筆者の住む島根県は高齢化,過疎化がすすみ耕作放棄地や手入れのされない人工林の山地が年々増大している。
一方で都市生活者の田舎暮らし願望はその比率を高めており、
例えば退職後の団塊世代が都会生活を離れ中山間地域での農的生活を目指すとき最初に解決すべきは耕作地と住宅の確保である。
そのときにセルフビルドにより手ごろな大きさの家を建てられるのであれば、経済的でもあるし再スタートにふさわしい達成感も得られる、
ただ、素人がセルフビルドに挑戦しようとする時、従来の軸組み工法やパネル工法、丸木組み工法はいかにも難しそうで二の足を踏むこととなる、
こうした困難さを克服できる新しい工法として、ここに示す木造 乾式嵌合 ブロック工法を約3年前に考案した。
この工法によって,セルフビルドが容易になるのみならず、中山間地域への定住促進および地場産業振興にも寄与すると思われる。 以下に木造 乾式嵌合 ブロック工法の概要を述べたいと思う。
ログハウスなどのセルフビルド工法は欧米では比較的一般化しているにもかかわらず,わが国においては欧米ほど普及しているとは言いがたい。
今後セルフビルド工法がより普及するためには以下に示す条件が満足される必要がある。
これらの条件を十全に満たす工法・システムがあれば日本でのセルフビルド普及率は飛躍的に上昇し、戸建て住宅の比率も高まることが予想される。
本誌読者の多くは子供のころ上部にイボイボを持つプラスティックブロックおもちゃに夢中になった経験をお持ちのはずである。
あのおもちゃのように上下の木質ブロックを互い違いに嵌合させ実際の建築を可能にできないかという発想が工法開発の原点となった。
ブロックは,間伐材を含むスギ材だけから製造された合板(3プライ,厚さ7 mm)を用い,第1図に示すような形状に製造されたものである。
間伐材の需要喚起を目指し、素人でも容易に建設・解体・移設が可能であるように開発中である。
従来,建築資材の一般的イメージは「重い・かさばる・汚い・加工が難しい」であったが、 今回は強度等の性能を確保した上で「軽い・スリム・きれい・加工は最小限に」を各パーツの開発コンセプトとしている。 ブロックの大きさはレギュラー型で高さが450 mm,幅(壁面の厚み)が100 mm、長さは100 mm刻みで300~900 mmの7種類がある。 したがって構築物は平面において100 mmモジュール設計となる。
ブロックはモジュールあたり72 × 72 mmの角型空洞をもつので壁面は上下に貫通するパイプを内包した構造となる。
このパイプは配線,配管スペースとしても機能し,ボルト鉄筋の通り道にもなる。
この場で「壁面」と言う言葉を用いるが,正確には柱と筋交とを含む耐力壁を想起して頂きたい。
このようなブロックを組み立てることによって上図(2図)のような手順で住宅を造ることになるが,その概要について述べる。
大まかな組み立て手順は以下から
1820 × 910 mmの合板1枚から長さ500 mmのレギュラーブロック1個ができ,スギ合板なので重量が比較的に軽く,このサイズでほぼ5 kg,モジュールあたりの設計重量は1 kgとなる。
また、第6図に示すように凹凸の嵌合部はそれぞれ1/30勾配のテーパーが付いているために施工が簡易である。
施工の際、この部分には接着剤を用いない(乾式)のでボルト鉄筋のナットをゆるめ,桁を外すとブロックは繰り返し再利用できるし,移設も可能である。
現在、工場の1日1人でブロック12個を生産するにとどまっている状況である。
生産委託をしている工場の仕事の合間で試行錯誤をしながらの開発生産だが、今後本格生産に移行したときにその生産性をどこまで高められるかが製品の価格引下げに反映されてくる。
建築工事を発注された方であれば見積書の分かりにくさに当惑された経験をお持ちであろう。
中でも「○○工事一式」が多用され、その工事内容に占める材料費・人件費・粗利益・経費等が不明確で,工事費用の妥当性を判断できない。
このことも日本人の「建築はプロのもの」という意識を醸成する一因となっている。
またセルフビルドとひとくちに言っても,設備工事を筆頭に基礎工事や危険度の高い屋根工事などは素人には難しいので、専門業者に外注することになる。 これらの点をふまえて,インターネットを用いたヴァーチャル建築システムを開発中である7)。幸い100 mmモジュールブロック工法であることはデジタル処理に向いているので,将来的には次に述べるようなシステムを目指している。
システムは設計部、費用計算部、データベース管理部、立面図・平面図作成部で構成される。
第7図に全体のシステム構成図を示す、具体的にはメーカーの管理するサーバーに登録を終えたユーザーが第2図のようにパソコン3D画面上に建材パーツをマウスのピッキングで積み込み、
架空の建物をシミュレーション建設する。
建材パーツは建築順、アイテムごとに提示されユーザーはその中から必要なパーツを選択する。
パーツにはそれぞれ価格、施工時間、寸法情報などがあらかじめ入力してある。
ヴァーチャル空間に組み込まれた各パーツはそのデータが更新ボタンひとつで演算され大まかな価格・工数見積情報が素人でも入手可能となる。
3次元データからは2次元データも簡単に取り出せるので素人には今まで製図できなかった各種建築図面もプリントアウトでき、これらは各専門業者への工事発注と価格交渉のときにも役立つ。
ユーザーが実際の建築を行うときには、
サーバー管理者より推薦された地元の設計事務所・工務店(工法代理店)に建築確認申請作業および強度計算を依頼する。
この時点でユーザーは代理店の助言を仰ぎ建築基準法に準拠する仕様に設計を変更する場合もある。
また代理店からは専門工事業者の紹介も受けられる。
サーバー管理者は工事地周辺に住む他のユーザーにBCC等の手段で工事への無償労働参加を呼びかける。
面接の後,施主ユーザーは工事参加者を選定し安全対策、食事、駐車場、傷害保険などを準備する。
代理店の監督下で素人集団が躯体工事・屋根がけ・外装までを一気に完成させる。
一方,無償労働工事参加者はこの工法の建築予備軍と捉えることができる。
彼らにとって工事参加はリアルな経験となり,現場は自らの工事に向けてのいわば「施工実習教室」となる。ここに示した工法を媒介として建築を相互扶助する「結い」のようなコミュニティが全国各地に自然発生することを期待している。
ブロックの強度試験も昨年から開始したばかりであり7, 8),この工法を普及させるには以下のような課題が山積している。
以上の課題を解決し,この工法が冒頭で述べたセルフビルド普及条件に肉薄するには多大な資金および多数の研究機関と関連企業との開発参加が不可欠である。「レジャーとしての建築」新しい建築文化創出プロジェクトとしてコンソーシアム形成が待たれる。